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岡山地方裁判所 昭和62年(ワ)284号 判決 1991年5月30日

原告

槌田茂

ほか一名

被告

濵口一人

ほか一名

主文

(第二八四号事件)

1  被告らは、原告槌田茂に対し、連帯して金五〇五万九七二〇円及びこれに対する昭和五八年四月二三日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  原告槌田茂の本件その余の請求を棄却する。

3  この判決は、原告槌田茂の勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

(第五九九号事件)

原告有限会社槌田茂商店の請求を棄却する。

(訴訟費用)

訴訟費用は、原告槌田茂に生じた費用の一〇分の一を被告らの負担とし、原告槌田茂に生じたその余の費用と被告らに生じた費用の二〇分の九を原告槌田茂の負担とし、被告らに生じた費用の二〇分の一一と原告有限会社槌田茂商店に生じた費用を原告有限会社槌田茂商店の負担とする。

事実及び理由

第一請求

(第二八四号事件)

被告らは、原告槌田茂に対し、連帯して金六四五四万四二五〇円及びこれに対する昭和五八年四月二三日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

(第五九九号事件)

被告らは、原告有限会社槌田茂商店に対し、連帯して金五〇八九万九六八八円及びこれに対する昭和五八年四月二三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、追突事故により負傷した原告槌田茂(原告槌田)が民法七〇九条に基づき被告濵口一人(被告濵口)に対し、自賠法三条に基づき被告株式会社岡山駆除(被告会社)に対し損害賠償を請求し(第二八四号事件)、右事故当時原告槌田が代表取締役をしていた原告有限会社槌田茂商店(原告会社)が民法七〇九条に基づき被告濵口に対し、同法七一五条に基づき被告会社に対し損害賠償を請求しているもの(第五九九号事件)である。

一  争いのない事実(両事件)

1  事故

被告濵口は、昭和五八年四月二三日午前一一時四五分ころ、岡山市中央町一〇番二八号先市道上において、被告会社が所有し、自己のために運行の用に供する普通乗用自動車(岡五六る六六〇九、加害車)を運転して走行中、同所に停止していた原告槌田運転の普通乗用自動車(岡五六ひ四四六七、被害車)に追突し、原告槌田に対し、頸椎捻挫及び腰椎捻挫の傷害を負わせた(本件事故)。

2  治療

(一) 昭和五八年四月二三日から同年五月三一日まで医療法人洋友会中島病院(中島病院)へ入院

(二) 同年四月二五日から翌五月三一日まで井戸外科医院へ通院(実日数二日)

(三) 同年六月一日から同月一六日まで中島病院へ通院(実日数三日)

(四) 同年六月一日から翌七月二七日まで井戸外科医院へ入院

(五) 同年七月二八日から翌八月三一日まで井戸外科医院へ通院

二  争点(以下は原告及び原告会社の主張)

1  受傷

前一(争いのない事実)1の傷害のほか、左眼瞼下垂、右音感性耳鳴り、陰茎勃起消失

2  原告槌田の損害

(一) 治療

(1) 昭和五八年六月一四日から昭和六〇年七月一二日まで岡山大学附属病院耳鼻科へ通院(実日数一二日)

(2) 前一2(五)に続いて、昭和五八年九月一日から翌五九年八月三一日まで井戸外科医院へ通院(右(五)の期間と併せて実日数二一〇日)

(3) 昭和五八年八月二日から昭和六〇年七月六日まで岡山大学附属病院眼科へ通院(実日数九日)

(4) 昭和五九年一月六日から昭和六〇年八月三一日まで岡山市立せのお病院へ通院(実日数二三七日)

(5) 昭和五九年五月二三日から翌六月八日まで労働福祉事業団岡山労災病院へ通院(実日数四日)

(6) 昭和六〇年三月四日から同年一二月七日まで川崎医科大学附属病院へ通院(実日数七〇日)

(7) 昭和六〇年一一月九日から同年一二月七日まで財団法人倉敷成人病センター南くらしき病院へ通院(実日数五日)

(二) 後遺障害

左眼瞼下垂、右音感性耳鳴り、陰茎勃起消失

(三) 損害

(1)入院雑貨(九万六〇〇〇円)、(2)通院交通費(三八万四三二〇円)、(3)休業損害(九六〇万円)、(4)逸失利益(四二三五万七〇三一円)、(5)慰謝料(八八〇万円)、(6)弁護士費用(五八六万七六五九円)

3  本件事故と右損害との因果関係

4  損害の填補(二二九万二六七〇円)

5  原告会社の損害

(一) 原告会社、訴外株式会社マルシゲ産業(訴外会社)と原告槌田の関係

訴外会社は、形式上原告会社と別の法人格ではあるが、実体は原告会社の建築材料販売部門であり、経理は両会社の損益を通算し、原告会社の損益として計上してきており、原告槌田は、右両会社の代表取締役であつて、右両会社の実態は、原告の一つの個人企業にすぎず、原告と右両会社は、経済的に一体の関係にある。

(二) 原告会社及び訴外株式会社を一体とする原告会社の損害

(1) 昭和五八年七月一日から昭和五九年六月三〇日の間(第一四決算期)

第一三期比営業利益減少額二四二八万二〇五〇円、第一三期比支払利息増加額二五九万五七六三円、合計二六八七万七八一三円

(2) 昭和五九年七月一日から昭和六〇年六月三〇日の間(第二五決算期)

第一三期比営業利益減少額一三四二万九四四三円、第一三期比支払利息増加額四五〇万二四三一円、合計一七九三万一八七四円

(3) 昭和六〇年七月一日から同年一二月七日の間(第一六決算期中)

第一三期比営業利益減少額一四六万二七五七円

(4) 弁護士費用(四六二万七二四四円)

6  本件事故と右損害との因果関係

三  争点に対する判断

1  受傷及びこれと本件事故との因果関係

(一) まず、本件事故は、前記本件事故の発生現場において、停止していた被害車に後方から時速約二〇ないし三〇キロメートルで進行してきた加害者が、そのままほぼ同速度で追突したものである(乙四、被告濵口)。原告槌田は、直ちに中島病院で診察を受け、まずは腰部打撲傷、頸部鞭打損傷と診断され、初診時に原告槌田は、頭痛、頭重感、悪心、吐き気を訴え、翌日から耳鳴りを訴えていた(甲二、一八、四九)。原告槌田は、耳鳴りについて、岡山大学医学部付属病院耳鼻咽喉科で診察、検査及び治療を受けた結果、右感音性耳鳴りと診断されている(甲一八)。眼瞼下垂については、岡山大学医学部付属病院眼科において、やはり診察、検査及び治療を受け、左眼の瞼裂開度は右眼の三分の二ないし二分の一程度であつて、左眼瞼下垂と診断された(甲一九、乙一五の7)。また原告槌田は、本件事故後四〇日経過したころから、陰茎勃起消失を訴えるようになり、岡山大学医学部付属病院泌尿器科及び財団法人倉敷成人病センター南くらしき病院で治療を受けたが、右訴えが続いている(甲二〇、四九、原告槌田)。そして、右診断をした各医師は、原告槌田の右感音性耳鳴は本件事故によつて起こりうるとし、また左眼瞼下垂について、これが本件事故によつて生じたものと思われるとしている(甲一八、乙五の4)。

(二) しかし、右耳鳴りについては、右診断者は、行つた耳鳴りの検査が、耳鳴りの有無について客観的な判定に関する検査ではないとしており(甲一八)、換言すると被検者の主観に依存するものである。さらに、原告には、本件事故前から、両側高音急墜型難聴が存在したものと思われるともしており(甲一八)、また本件事故と右耳鳴りの因果関係についても、原告槌田がいう右耳鳴り、右上下肢の痺れ感の自覚症状及び眼瞼下垂が本件事故後に現れていることから、耳鳴りは本件事故によつて起こりうるとの見解を述べているに過ぎない(甲一八)。そして、原告槌田に対しては、岡山大学医学部付属病院耳鼻咽喉科及び岡山市立せのお病院において抗耳鳴剤の投与その他の治療がなされたが(甲一二、一八)、原告槌田は、耳鳴りが現在もなお続いているという(原告槌田)。

(三) 左眼瞼下垂については、まず原告槌田の眼球運動は正常であるが、左眼の注視野では上方視野に軽度の狭窄が認められる(甲一九)。ところで、眼瞼下垂は、上眼瞼挙筋あるいは上瞼板筋の障害によるものであつて、右各筋肉は、それぞれ動眼神経及び交感神経の支配を受けているものであるが(乙五の4)、前記診断者は、原告槌田の左眼瞼下垂は、右神経の局所的な異常かと思われるが、どの神経かは決め難いとしている。(乙五の4)。そして、、右診断者は、原告槌田の左眼瞼下垂が本件事故によると思うとの前記見解について、その理由は述べていない(乙五の4)

ところで、井戸外科医院が発行した昭和五八年八月一七日以後の診断書には、原告槌田の病名としてホルネル症候群が記載されており(甲四、六ないし九)、岡山弁護士会からの照会に対しては、井戸外科医院は、右症候群として、原告槌田の左眼瞼下垂を挙げている(乙二)。しかし、井戸外科医院では、原告槌田の左眼瞼下垂について、検査をした形跡及び右病名の記載がどの程度の検査資料や診断結果に基づきなされたものであるかについては、これを認めうる証拠はない。

因みに、ホルネル症候群とは、瞳孔の縮小、眼瞼の狭小、眼球の後退を三主徴とする症候群で、三主徴はこの順で現れ易いもので、頸部交感神経領域、最下部頸髄にある毛様体脊髄中枢、またはこれより出入りする交通枝、その他これに連絡ある中枢性交感神経線維の障害されるときにみられるとされている(南山堂「医学大事典」(縮刷版)一九八七年発行)から、原告槌田の左眼瞼下垂がホルネル症候群の症状のひとつであれば、これがいわゆる交通事故により起こる可能性が全く否定されるというものではない。

(四) 原告槌田は、本件事故後、初診を受けた中島病院でX線検査を受けているが、頸椎には異常はなく、腱反射亢進もあつたが、腰椎に軽度の変形性脊椎症が認められ、次の井戸外科医院における検査で、脳波にも異常がなかつた。(甲一六、一七)。本件事故後、原告槌田は、二日間、中島病院に通院したのち、同病院に入院して個室を利用したが、医師は、その理由を、原告槌田が受傷後、精神的不安定の状況で、頸椎損傷を誘因とする自律神経失調及び心身症を併発したため、精神的安定を必要としたからであるとしている(甲二、乙一五の9)。

(五) 原告槌田は、中島病院に入院中も、井戸外科医院へ二日通院し、またその後、井戸外科医院に入院中も、中島病院へ三日通院しているが(争いがない)、原告槌田がそのような重複治療を受けなければならなかった事情を認めうる証拠はない。

(六) 本件事故発生時には、被害車には原告槌田の妻(当時五二歳、原告槌田は当時五四歳)が同乗(乗車位置は不明)していた(証人槌田冨美子)。同女は、本件事故の約一か月半後の昭和五八年六月一日から約三か月間、井戸外科医院に入院し、その後昭和五八年一二月一〇日まで(実日数五三日)、同医院に通院したが、頭痛、不眠、頸部痛を訴えるものの、それは自覚症状が主たるものであつた(乙一、二)。そして、被告らと右妻との間には、昭和五九年七月六日、本件事故による右妻の損害として、被告らが既払分(不明)を除き二七五万円を支払う、同年一月三一日までの治療費は、被告らが負担するとの調停が成立した(乙六、七)。

(七) 原告槌田は、本件事故発生の約一か月前である昭和五八年三月一八日、いわゆる一一トンダンプ車を運転中、追越車を避けるためハンドルを右に転把し、中央線を越えて対向車線のバスに衝突するという事故を起こした(甲五二、乙三の1、2)。そして、本件事故の場合と同様、中島病院で治療を受けている(原告槌田)。

以上(二)ないし(七)の事実を総合すると、(一)の事実をもつて、原告槌田の右感音性耳鳴と左眼瞼下垂が本件事故に起因するものであることを証明しえたものということはできず、原告槌田の陰茎勃起消失が本件事故と因果関係があると認めうる証拠はない。したがつて、本件事故と相当因果関係にある原告の受傷は、頸椎捻挫及び腰椎捻挫(本件障害)のみである。

2  後遺障害

右のとおり、原告槌田が主張する右感音性耳鳴、左眼瞼下垂及び陰茎勃起消失が本件事故による後遺障害とは認められない。しかし、原告槌田の本件障害は後記認定のように固定したものの、本件障害に関しては、なお頭痛、腰痛、頸部痛が残つている(甲一六、本件後遺障害)。

なお、いま仮に、原告槌田の左眼瞼下垂がすべて本件事故に起因するものであるとしても、その程度は、前認定のとおりであり、これと同人の右眼に障害はなく、顔面の回転を利用することも容易であることによれば、この左眼瞼下垂により生ずる視野や遠近感の障害は、前記車両の運転(この場合、通常各種の写鏡をも利用する)を考慮に入れても、その程度において、本件障害による右後遺障害の程度に殆ど付加するものはない。

3  原告槌田の損害

(一) 治療

本件障害は、昭和五九年一月三一日固定している(甲一六)から、原告槌田が治療に要した諸費用、休業損害及び治療期間中の慰謝料は、多くても本件事故時から右固定日までのものに限られる。

(二) 損害

(1) 入院雑費 九万六〇〇〇円

本件事故時から右固定日の間における入院日数は、中島病院で三九日(正確には最初の二日間は通院であるが(甲二)、争いがない)、井戸外科医院で五七日、合計九六日であり、この入院中に原告槌田が要した雑費は一日につき一〇〇〇円とするのが相当である。

(2) 通院交通費 一四万四四八〇円

本件事故から右固定日の間における実通院日数は、中島病院へ三日(争いがない)、井戸外科医院へ一四一日で(甲一六)、自宅から中島病院へは往復二二〇円の、井戸外科医院へは往復一〇二〇円の交通費を要する(甲二一)から、原告槌田は、右各通院に合計一四万四四八〇円の交通費を要したものということができる。

(3) 休業損害 四二八万円

原告槌田は、本件事故当時、砂利、砕石の販売と運搬を営業する原告会社と不動産の賃貸を営業する訴外会社の各代表取締役を兼務していて(甲二二、二三)、原告会社から月額三〇万円の役員報酬を受けていた(甲二五、四九)。訴外会社は土地を大型スーパーに賃貸していて、その賃料を収受するだけであるから、特別原告槌田の労務提供を要するものではなく、他方原告会社では、原告槌田は、自分の氏名、住所及び得意先以外は殆ど漢字の読み書きができないため、請求書等の発行、集計及び支払は同人の妻が行い、従業員と同様に、原告槌田は専ら砂利、砕石の運搬するいわゆるダンプカーの運転をしていた(甲四八、四九、証人槌田冨美子、原告槌田)。そして、原告槌田が原告会社及び訴外会社から従業員給与の支給を受けていたことを認めうる証拠はない。右事実と報酬の金額を総合すると、右報酬は一応役員報酬とはされているものの、その実質は、原告会社の車両運転者等としての原告槌田の従業員給与であったということができるところ、原告槌田は、本件事故後、右報酬の支払を受けていない(甲二五、四九)。

前記本件障害の内容と程度(頭痛、吐き気など)、これの治療期間及び井戸外科医院では、原告槌田は同医院退院ころから就労可能であるとする(乙一、二)一方、原告槌田は腰痛、両手足の痺れによつて、原告槌田が激務であるという、ダンプカーの運転は障害されるかもわからない(甲一六)ともしていることを総合すると、原告槌田が前記入院期間及び通院日に稼働できなかつたことはもとより、前記症状固定日までのそれ以外の日も、殆ど前記稼働はできなかつたものというべきである。

本件事故日から前記症状固定日までは一四か月と八日であるから、この間における原告槌田が受けることのできた収入は四二八万円となる。

(4) 逸失利益 三六万円

前記本件後遺障害の内容と原告槌田の職務内容とを総合すると、本件事故により、原告槌田は、前記症状固定日ののち二年間、その稼働能力の五パーセントを失ったものと認められるから、原告槌田の前記収入額から、本件事故に起因するところの本件後遺障害による原告槌田の逸失利益は三六万円となる。

(5) 慰謝料 二七〇万円

以上認定の諸般の事情を考慮すると、本件事故と相当因果関係のある原告槌田の慰謝料は二七〇万円が相当である。

(6) 損害の填補 二八六万七六〇円

本件事故により原告槌田に生じた損害(但し、本件において請求している費目)のうち、二八六万七六〇円は既に支払われている(甲六三、乙一七)。したがつて、被告らが、原告槌田に対し、賠償すべき本件事故による損害額は、右(1)ないし(5)の認定額合計七五八万四八〇円から右填補額を控除した四七一万九七二〇円となる。

(7) 弁護士費用 三四万円

本件事故と因果関係のある、原告槌田の被告らに対する損害賠償請求に関する弁護士費用は、右認容額その他の事情を勘案し、さらに、原告槌田は、右費用について、本件事故日からの遅延損害金をも求めているから、本件事故日から本件口頭弁論終結時までの中間利息を控除して、これを三四万円と認めるのが相当である。

4  原告会社の損害

まず、個人の人身事故による加害者に対する損害賠償の請求は、原則として、その個人のみが請求でき、右個人の人身事故により、例えば、同人が代表者を勤める特定の企業が間接的に損害を受けたとしても、右企業の損害が被害者である右個人の損害と等価値であると認められる程度に、右企業と右個人との間に経済的一体性が認められる場合を除いては、損害の妥当な分担を図る上からは、右企業は加害者に対する損害賠償請求権による保護を受け得ないものであると解する。

これを本件についてみるに、原告槌田は、昭和三二年ごろから、個人で原告会社と同じく砂利、砕石の販売、運搬及び土地の賃貸等を業としていたが、昭和四四年、脱税で摘発されたため、合法的に税金を軽減すべく、翌四五年七月一五日、資本金二〇〇万円の原告会社を設立し、次いで、原告会社の業務では、関連取引先の倒産等の影響を受ける危険があるので、賃料収益を温存させるためには、別会社を作ればよいと、顧問税理士に教えられ、昭和五一年七月一四日、右土地の賃貸等を業とする資本金一〇〇〇万円の訴外会社を設立した(甲四九、二二、二三、二五)。そして、原告槌田は、本件事故当時、原告会社及び訴外会社の代表取締役であつた(前認定)。

右事実によると、原告会社及び訴外会社は、まずは、原告槌田の個人企業が法人成りしたものであるということはできる。

しかし、原告会社と訴外会社の営業実績は、両社を合わせて(会計上、原告会社に一括計上されている)、本件事故前の昭和五七年七月一日から翌五八年六月三〇日の一年間の売上高は合計約一億三四〇〇万円、売上総利益は約七九〇〇万円、営業利益は約二二〇〇万円である(甲二五)。また、砂利、砕石の販売、運搬業の取引先も、原告槌田が挙示するだけでも一〇数社に及ぶ(甲二五、五五の5)。さらに、訴外会社は賃料を収受するだけであつて、特に原告槌田の業務活動を必要とするものではなく、原告会社の営業活動における原告槌田の役割は、同人の個人的な信用は別として、前認定のように、ダンプの運転が主たるものであつて、請求書等の整理、電話による受注は専ら同人の妻が行つており、その他、運搬には従業員一名を雇い、人手が不足すると運転手付で他の車輌をチャーターしていた(甲四八、四九)。

右事実によれば、もはや原告会社及び訴外会社が小規模で、会社とはいえ名ばかりのものであるとはいえず、原告槌田の特別の知識、経験あるいは技能に右各会社の存続が強く依存していて、原告槌田の原告会社及び訴外会社における代表取締役あるいはその他の地位に代替性がなかつたとはいえないから、原告槌田と右各会社との間に経済的一体性があるものとは認め難い。

したがつて、さきに説示したところから、原告槌田が本件事故に遇つたことにより、仮に原告会社及び訴外会社になんらかの損害が発生したとしても、原告会社及び訴外会社はこれを被告らに請求することはできないものである。

(裁判官 岩谷憲一)

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